花の蜜を吸う子供

めまいがひどくて横になっていたら、窓の向こうから鳥たちのさえずりが聴こえてきた。その音色は、めまいのときでも灰色の膜を通り抜けて真っ直ぐに伝わってくるようだった。

それから、少しだけ外を歩いた。桜はもうだいぶ散り始めていて、葉桜も目立ってきていた。二人の男の子が、その桜の木の結構高いところまで登っていた。木登りをする子を最近あまり見ることがなかったから、新鮮な光景だった。あとからやってきた女の子が、「何してるの」と聞いたら、「花の蜜を吸ってるんだよ」と答えていた。小鳥の会話みたいだった。

でも、その返事に女の子はびっくりしたのか、若干引き気味で、一人の男の子が木の上から、「花って甘いんだよ」と言った。しばらくして、取り過ぎはよくないと思ったのか、「桜がかわいそうだ」と言いながら、男の子たちは軽やかに桜の木から降りてきた。その光景になんだか僕は元気をもらった。

そういえば、自分も、桜ではなかったけれど、花の蜜を吸うということを子供の頃にしたことがあったなと思い出した。うろ覚えながら、ぼんやりと記憶にあるのは、ピンクや紫っぽい色で細長い花。あれはなんの花だったかなと思って調べたら、ホトケノザだった。あとは、祖母に教わって、山に生っていたキイチゴを食べたときも驚いた。駄菓子屋ではなく、自然のなかに甘みがある、ということに結構な衝撃と感動があったように思う。

こういうことも、今は誰かが怒るのだろうか、とそんなことがよぎることにも疲れたなと思いながら、健やかに羽ばたいていってね、とただ静かに祈るばかりだった。