桜が散ったあと

桜がもうすっかり散ってほとんど葉桜になっていた。辺りは初夏のような色合いになっているけれど、でも、まだぽつぽつと花びらも残っていて、風が強く吹いたら、その残った桜の花びらが、はらはらと散ってくる。

もう桜の季節も終わったのかなと思っていたときに、ふいに舞ってくる花びらは、春真っ盛りの桜吹雪とはまた違った美しさがあって、こういった情景を表す言葉がないかなと思った。散り残っていた桜が、新緑の世界で、風に乗って少しだけ舞い落ちてくる、そんな景色のこと。名残の花という表現があったけれど、これはでも、そんなふうに初夏の色合いになりつつある風景に、桜が散ってくるというよりは、散り残っている桜自体のことを意味するみたいだ。それから、一面に散らばっている桜の花びらも美しい。これは花屑という言葉があるらしいけれど、あんまり可愛い表現じゃないなと思う。あと、桜の花が散ったあとに、がくやしべの部分も落ちてきて地面が赤くなっているのもよい(これは“桜しべ降る”という俳句の季語があるようだ)。地面で赤と淡い桃色とが混ざり合っているのも綺麗だ。

桜が咲き始めて、どんどん咲いていくのも、咲いたと思ったら次々散っていくのも、ざわざわして過ぎ去っていってしまうことへの寂しさもあるから、こうして散ったあとのほうが、なんとなく安心感がある。

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