ゆうれい犬と街散歩

寒い日が続いている。雨がぽつぽつと降ることも多く、洗濯物がなかなか干せないし、体も重たい。あと一か月もすれば桜が満開で散っていってるなんて、想像もつかないなと思う(たぶん毎年思っている)。

最近読んだ漫画の話。中村一般さんの『ゆうれい犬と街散歩』という漫画を読んだ。一巻で終わる、エッセイみたいな漫画で、「私」と、ゆうれい犬のハナちゃんが、東京の街をぶらぶらと散歩する、という話。絵の雰囲気も好きだし、どんなものを見て、どんな風に感じているか、といったことが淡々と描かれている、その温度がいいな、と思った。ぼんやりと歩きながら街の裏路地や、川沿いを歩いたりする。僕もこんな風に歩くのが好きだから、なんだかすごくわかるなぁと思う。一人の世界で考えごとをしている。考えごとをしながら歩いている。もしかしたらそれだけでは少し寂しかったかもしれない。でも、この漫画にはゆうれい犬がいて、ゆうれい犬と一緒に歩いている。この子の存在で、主人公が一人の世界に閉じていても、なにか読んでいて遠くない感覚になる。距離を繋いでくれる。

このゆうれい犬は、普段散歩をしているときの話し相手としてつくった中村一般さんのイマジナリーフレンドで、モデルは以前一緒に暮らしていた犬だそう。両者の関係性は漫画内では描かれていないものの、互いの距離感が絶妙でなんだかほっとする。ゆうれい犬は結構頭がよい。悩んでいる「私」に、優しく物事の見方も教えてくれる。この漫画の心地よさはなんだろう。絵の雰囲気もだし、一人の世界と、そこにふわふわと漂いながらいつも寄り添っているゆうれい犬の優しさが、心地よい。

中村さんの漫画は初めて読んだ。前に『イラストレーション』という雑誌を読んだときに見て、その絵が好きで、インタビューも面白かった。結構前に、「ダックスフンドを探せ」という色んなものに溢れた密度のある一枚の絵から、小さな小さなダックスフンドを探すという投稿がSNSで拡散されていて、これが中村さんだというのもこの雑誌で知って、そういえば、あのとき僕も、ダックスフンドを探していたなぁ、と思い出した。あのときは作者が誰かということはあまり考えていなかった。それから、インタビューでは、そのダックスフンドが、この「ダックスフンドを探せ」を描いた前年に死んでしまったハナちゃんだという話も語られていて、今回漫画を読んで、そっか、あのとき探していた犬が、このゆうれい犬のハナちゃんでもあったんだと、何年かぶりに再会したような気がした。